コラム

AIエージェント時代の会計・税務Q&A|会計事務所はどこまでAIに任せられるか - 星野宇潮(公認会計士・税理士)

AIエージェント時代の会計・税務Q&A|会計事務所はどこまでAIに任せられるか(公認会計士・税理士 星野宇潮)

【この記事の要約】①会計・税務の実務でAIエージェントに任せられるのは「判断のまわりの作業」──集計、突合、下書き、転記、定型チェック。判断・申告内容の確定・署名は人間の専門家に残ります。②最大の論点は守秘で、顧問先データを外部AIに送る前に「そもそも端末の外に出さない」選択肢を検討すべきです。③よくある10の質問に、自律型AIエージェントを実務に実装している公認会計士・税理士がQ&A形式で答えます。

Q1. AIエージェントとは何ですか? チャットAIと何が違いますか?

チャットAIは「聞かれたら答える」受け身の道具です。AIエージェントは、目的を与えると自分で手順を組み立て、ツールを操作し、複数のステップの作業を進めるAIを指します。複数のエージェントが分担して働く形は「エージェント・スウォーム」と呼ばれます。会計実務でいえば、「データを渡すと、集計→照合→下書き作成まで一連で進める」働き方をイメージしてください。

Q2. 会計事務所の実務で、AIエージェントは実際に何ができますか?

すでに実用水準にあるのは次のような領域です。

  • 集計・転記──試算表や明細からの資料作成、フォーマット変換
  • 突合──帳簿と証憑・明細の照合、入金消込のような大量マッチング
  • 定型チェック──縦計横計、前期比較、恒等式の検算
  • 下書き──定型文書・検討メモのドラフト作成

共通するのは、正解が機械的に決まる作業だということです。逆に、会計処理の選択、税務判断、見積りの評価といった「正解が判断に依存する仕事」は、AIの支援は受けられても、確定させるのは人間の専門家です。

Q3. 顧問先のデータを外部のAIサービスに入力しても大丈夫ですか?

ここが最大の論点です。税理士には税理士法上の守秘義務があり、会計士も同様です。参考になるのが監査業界の整理で、日本公認会計士協会は、機密情報は適切な情報セキュリティが確保されていなければ生成AIに入力すべきでない、と明確に述べています(テクノロジー委員会研究文書第11号)。

実務的な選択肢は3段階あります。①機密データを入れない使い方に限定する、②入力情報が学習に使われない契約形態・設定を確認して使う、③そもそもデータを端末の外に出さない仕組み(端末内で解析・計算が完結するツールやローカル実行)を選ぶ。守秘義務を負う士業がもっとも堅牢なのは③で、私自身が開発している監査支援AI「右筆(Yuhitsu)」もこの設計を採っています。

Q4. AIが作った申告書や決算書に間違いがあったら、責任は誰が負いますか?

税理士・会計士です。AIに責任能力はなく、AIを使ったことで専門家の責任が軽くなることはありません。監査の世界でも「AIを利用した場合でも監査人の責任は軽減されない」が公式の整理です。だからこそ、AIには確定させる権限を与えない──出力はすべて「下書き」として扱い、人間が検証して確定する──という運用ルールが導入の大前提になります。

Q5. 記帳代行の仕事はAIエージェントでなくなりますか?

「入力・転記」という作業そのものは、確実に自動化が進みます。ただし実務で価値の中心だったのは、実は入力ではなく「クライアントの実態を理解して、正しい科目と処理に落とす判断」と「異常に気づく目」です。作業が自動化されるほど、この判断と検知、そしてクライアントへの説明という人間の仕事の比重が上がります。仕事は消えるのではなく、重心が移ると考えています。

Q6. 小さな会計事務所でも導入できますか? 何から始めるべきですか?

できます。定石は「失敗しても被害が限定される単純作業」から始めることです。

  1. 社内の定型作業をひとつ選ぶ(例: 月次資料の集計、突合チェック)
  2. 手順・判断基準・やってはいけないことを文章に書き出す
  3. AIに実行させ、人間が全件検証する期間を置く
  4. 精度が確認できたら、検証をサンプルに切り替える

ポイントは2番です。AIエージェントの導入とは、実は業務の文書化(手順書と職務分掌の整備)とほぼ同義です。これは会計事務所が顧問先の内部統制で日常的にやっている仕事そのもので、士業はAI導入の適性がもともと高い職種だと私は考えています。

Q7. 税務判断(節税の可否、処理の選択)をAIに聞いてもいいですか?

情報収集や論点の洗い出しには有用ですが、AIの回答をそのまま税務判断にしてはいけません。生成AIには、根拠のない内容をもっともらしく述べる性質(ハルシネーション)があり、税制は毎年改正されます。条文・通達・国税庁の公表物という一次情報での裏取りと、事実関係への当てはめは、税理士の仕事として残ります。

Q8. 監査の世界ではAIはどこまで進んでいますか?

大手監査法人では調書のドラフトやレビューを支援するAIツールの導入が始まっており、監督当局(公認会計士・監査審査会)も現状は禁止ではなく動向モニタリングの段階です。一方で、AI利用を直接規律する監査基準はまだなく、中小・個人の会計士が使える道具は少ないのが現状です。この空白に向けた設計論は別の記事(監査×AIエージェントの設計論)で詳しく書いています。

Q9. AIエージェント導入で、事務所側に必要な社内ルールはありますか?

最低限、次の4点を推奨します。①入力してよいデータの線引き(顧問先の機微情報は原則入力しない/端末内完結のみ可、など)、②確定権限の留保(AI出力は必ず人間が検証して確定する)、③利用ツールの台帳化(誰が・何を・どの業務で使っているか)、④事故時の対応(誤送信・誤出力に気づいたときの報告ルート)。監査業界では、AIツールの利用が品質管理体制の整備事項になるという整理がすでに示されており、税務・会計の実務でも同じ方向に進むと見ています。

Q10. AIエージェントの時代に、会計事務所の強みはどこに残りますか?

三つあると考えています。判断(正解が一つに決まらない問いに、根拠をもって答える)、責任(署名し、結果を引き受ける)、そして信頼関係(経営者が数字の悩みを打ち明けられる相手であること)。AIエージェントは、この三つに使う時間を増やすための道具です。私自身、「自律型AIエージェント・スウォームを現実の産業に社会実装する公認会計士・税理士」として、判断と責任を人間に残したまま作業を自動化する形を、自分の実務で検証し続けています。

まとめ/ご相談

AIエージェントは会計事務所の敵ではなく、判断・責任・信頼関係という本来の仕事に時間を割くための道具です。導入の鍵は、任せる作業と人間に残す判断の線引き、そして顧問先データを守る仕組みの選択にあります。メタワークス会計事務所・メタワークスコンサルティングでは、クラウド会計の導入、経理DX、AIを活用した業務自動化まで、経営の足場づくりを一気通貫で伴走しています。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務・監査上の判断を代替するものではありません。税制は改正されるため、最新の取り扱いは国税庁・金融庁・日本公認会計士協会などの公式情報をご確認のうえ、具体的なご判断は専門家にご相談ください。

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