<p>2024年度(令和6年度)の税制改正は、物価高と人手不足が続くなかで「賃上げ」「国内投資」「国際課税の適正化」を後押しする内容が柱となりました。とりわけ中小企業・スタートアップにとっては、使い方次第で資金繰りと採用力に差がつく改正が複数含まれています。本記事では、経営者・個人事業主の皆さまが押さえておくべき法人税関連の主要ポイントを、実務での適用判断という観点から整理します。</p>
<p>本記事は、公認会計士・税理士であり、IPO支援を20社超手がけ、一般社団法人RULEMAKERSDAOの監事として合同会社型DAOの立法にも関与する<a href="https://invaders.co.jp/members/hoshino-ushio.html">星野宇潮</a>が監修しています。なお、税制は毎年改正され、適用要件も細かく定められています。個別の適用可否は必ず最新の公式情報と顧問税理士でご確認ください。</p>
<h2>2024年度法人税改正の全体像</h2> <p>2024年度改正の法人課税分野は、大きく次の4つの方向性に分けて理解すると整理しやすくなります。</p> <ul> <li><strong>賃上げの後押し</strong> — 賃上げ促進税制の拡充(控除率の上乗せ・繰越控除の創設)</li> <li><strong>取引・交際の活性化</strong> — 交際費から除かれる飲食費の基準額の引き上げ</li> <li><strong>国内設備投資の促進</strong> — 中小企業経営強化税制などの延長</li> <li><strong>国際課税の適正化</strong> — グローバルミニマム課税(第2の柱)の本格適用</li> </ul> <p>以下、それぞれを実務でどう活かすかという視点で掘り下げます。</p>
<h2>1. 賃上げ促進税制の拡充 ― 中小企業は最大45%の税額控除+繰越控除</h2> <p>賃上げ促進税制は、従業員の給与等支給額を一定以上増やした企業が、その増加額の一定割合を法人税額から直接差し引ける制度です。所得控除ではなく<strong>税額控除</strong>であるため、節税インパクトが大きいのが特徴です。2024年度改正では、中小企業向けの制度が次のように拡充されました。</p>
<h3>中小企業向けの控除率(イメージ)</h3> <table> <thead> <tr><th>区分</th><th>要件</th><th>控除率(加算)</th></tr> </thead> <tbody> <tr><td>通常要件</td><td>雇用者給与等支給額が前年度比1.5%以上増加</td><td>15%</td></tr> <tr><td>通常要件</td><td>同2.5%以上増加</td><td>30%</td></tr> <tr><td>上乗せ①</td><td>教育訓練費が一定以上増加</td><td>+10%</td></tr> <tr><td>上乗せ②</td><td>くるみん・えるぼし等の認定取得(仕事と子育ての両立・女性活躍)</td><td>+5%</td></tr> </tbody> </table> <p>これらをすべて満たした場合、中小企業の控除率は<strong>最大45%</strong>に達します(従来の上限は40%)。給与増加額が大きいほど、税負担の軽減効果も大きくなります。</p>
<h3>赤字でも賃上げを後押し ― 繰越控除の創設</h3> <p>今回の改正の目玉が、控除しきれなかった金額を翌期以降に繰り越せる<strong>繰越控除</strong>の創設です。これまでは、その年度に納める法人税が少なければ控除枠を使い切れず、赤字企業にとっては制度のメリットが及びにくいという課題がありました。改正により、控除しきれなかった額を一定年数にわたって繰り越し、黒字化した年度に控除できるようになったため、創業期・成長期で先行投資が重い中小企業やスタートアップにも賃上げのインセンティブが届きやすくなっています。</p> <ul> <li>適用対象期間や繰越年数、計算方法には細かな要件があります。</li> <li>教育訓練費の上乗せ要件は今後の改正で見直しが予定されており、適用年度によって扱いが変わり得ます。</li> </ul> <p>控除率・繰越年数・適用期間などの確定的な数値は、中小企業庁および国税庁の公式情報をご確認のうえ、自社の事業年度に当てはめて判断する必要があります。</p>
<h2>2. 交際費課税の見直し ― 飲食費の基準額が1人1万円に</h2> <p>交際費等は原則として損金不算入ですが、一定の「飲食費」については交際費等から除外され、全額を損金に算入できる仕組みがあります。2024年度改正では、この除外対象となる飲食費の判定基準が、<strong>1人当たり5,000円以下から1万円以下</strong>に引き上げられました。2024年4月1日以後に支出する飲食費から適用されています。</p> <p>これにより、取引先との会食を経費として柔軟に扱える範囲が広がりました。ただし、適用には要件があります。</p> <ol> <li>飲食費が1人当たり1万円以下であること(参加人数で割って判定します)。</li> <li>飲食した年月日、取引先など参加者の氏名・名称、参加人数、金額、店舗の名称・所在地などを記載した書類を保存していること。</li> </ol> <p>なお、社内の役員・従業員だけの飲食は原則この除外の対象外です。また、中小法人については、交際費等のうち年800万円までの定額控除と、飲食費の50%相当額の損金算入のいずれかを選択できる特例があり、この特例も延長されています。区分経理と書類保存の運用を整えておくことが、税務調査リスクの低減につながります。</p>
<h2>3. 中小企業向け設備投資減税 ― 中小企業経営強化税制の延長</h2> <p>中小企業経営強化税制は、経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等が、生産性向上設備や収益力強化設備などの対象設備を取得した場合に、<strong>即時償却</strong>または<strong>税額控除(最大10%)</strong>を選択して適用できる制度です。2024年度改正でも制度が延長され、国内設備投資を後押しする枠組みが維持されています。</p> <p>実務上のポイントを整理すると次のとおりです。</p> <ul> <li><strong>即時償却</strong>は、取得初年度に取得価額の全額を損金算入できるため、当期の課税所得を圧縮し<strong>キャッシュフローを前倒しで改善</strong>する効果があります。</li> <li><strong>税額控除</strong>は、法人税額そのものを減らすため、設備を長く使う前提では<strong>トータルの税負担軽減</strong>につながりやすい選択肢です。</li> <li>適用には、設備の取得前に経営力向上計画の認定を受けるなど、<strong>手続きの順序</strong>が決められています。設備を先に買ってしまうと適用できないケースがあるため、投資計画の段階での確認が重要です。</li> </ul> <p>対象設備の類型・要件・適用期限はその後の改正でも見直されています。投資を検討する際は、中小企業庁・経済産業省の最新の公式情報をご確認ください。</p>
<h2>4. グローバルミニマム課税(第2の柱)の本格適用</h2> <p>グローバルミニマム課税は、OECD/G20を中心に各国が合意した国際課税ルール(いわゆる「第2の柱」)です。一定規模以上の多国籍企業グループについて、軽課税国に所在する子会社等の税負担が<strong>最低税率15%</strong>に満たない場合に、その差額を親会社の所在国で上乗せ課税する仕組みです。日本では「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」として制度化され、所得合算ルール(IIR)が令和6年4月1日以後に開始する会計年度から適用されています。</p> <p>対象は、グループの年間総収入金額が<strong>7.5億ユーロ以上</strong>の多国籍企業グループであり、大多数の中小企業・国内企業に直接の納税義務は生じません。とはいえ、中小企業であっても次のような形で間接的な影響を受ける可能性があります。</p> <ul> <li>取引先である大企業グループが、グループ全体の実効税率管理や情報申告対応のため、<strong>取引条件・契約・データ提出の見直し</strong>を進めるケース。</li> <li>大企業グループの一員(子会社・関連会社)として、<strong>情報収集や報告体制の整備</strong>を求められるケース。</li> </ul> <p>自社が対象グループに含まれるかどうかは資本関係によって判定されるため、グループ内に該当企業がある場合は早めに専門家へ相談することをおすすめします。</p>
<h2>改正を「使う」ための実務チェックポイント</h2> <p>制度を知るだけでなく、自社の決算・申告に確実に落とし込むことが大切です。最低限、次の点を確認しておきましょう。</p> <ol> <li><strong>適用事業年度の確認</strong> — 改正の施行時期と自社の事業年度の関係を確認する(事業年度の途中から適用される制度もあります)。</li> <li><strong>事前手続きの有無</strong> — 設備投資減税のように、取得前の計画認定など事前手続きが必要な制度がある。</li> <li><strong>書類・エビデンスの整備</strong> — 交際費の飲食費明細、給与・教育訓練費の集計など、根拠書類を保存しておく。</li> <li><strong>選択の最適化</strong> — 即時償却か税額控除か、800万円定額控除か50%損金算入かなど、自社の損益見通しに応じた有利選択を行う。</li> </ol>
<h2>よくある質問(FAQ)</h2> <h3>Q1. 赤字の中小企業でも賃上げ促進税制のメリットはありますか?</h3> <p>はい。2024年度改正で繰越控除が創設され、控除しきれなかった金額を一定年数にわたって繰り越し、黒字化した年度に控除できるようになりました。これにより、創業期で赤字が続く企業でも、将来の黒字化を見据えて賃上げに踏み切る判断がしやすくなっています。ただし繰越年数や適用要件には条件があるため、具体的な計算は顧問税理士にご相談ください。</p>
<h3>Q2. 取引先との会食は、1人1万円以下なら無条件で全額経費にできますか?</h3> <p>「無条件」ではありません。1人当たり1万円以下であることに加え、飲食の日付・相手方の名称・人数・金額・店舗情報などを記載した書類の保存が要件です。また、社内の役員・従業員だけの飲食は原則として対象外です。要件を満たさない場合は交際費等として扱われ、損金算入が制限されることがあります。</p>
<h3>Q3. 当社は国内中心の中小企業ですが、グローバルミニマム課税を気にする必要はありますか?</h3> <p>直接の納税義務が生じるのは、年間総収入金額7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループが中心です。純粋な国内中小企業に直接の影響は限定的ですが、大企業グループの子会社・関連会社である場合や、対象企業と継続的に取引している場合は、情報提供や契約見直しを求められることがあります。グループ構成を踏まえた確認をおすすめします。</p>
<h2>まとめ/ご相談</h2> <p>2024年度(令和6年度)の法人税改正は、賃上げ・国内投資・国際課税の適正化という3つの軸で、中小企業の経営判断に直結する内容となりました。特に賃上げ促進税制の繰越控除と交際費の1万円基準は、要件を正しく満たして運用すれば、資金繰りと採用・取引活動の双方にプラスに働きます。一方で、控除率・基準額・適用期限・施行時期といった具体的な数値や手続きは改正のたびに変わり得るため、適用にあたっては必ず<strong>最新の公式情報(国税庁・タックスアンサー、中小企業庁、経済産業省、財務省、e-Gov法令検索など)</strong>と専門家の確認が欠かせません。</p> <p>メタワークス会計事務所では、税制改正を踏まえた節税スキームの設計から、賃上げ促進税制・設備投資減税の適用判断、決算・申告、スタートアップのIPOを見据えた管理体制の構築までを一貫してご支援しています。「自社にどの制度がどれだけ使えるのか」を具体的に知りたい方は、ぜひ<a href="https://metaworksgroup.jp/">メタワークスグループ</a>へお気軽にご相談ください。最新の<a href="https://metaworksgroup.jp/topics/">税務・会計コラム</a>もあわせてご覧いただけます。</p>
カテゴリ: 税務情報