インタビュー

星野宇潮インタビュー③ ─ 合同会社型DAOの立法に関与した経緯とRULEMAKERS DAO設立|公認会計士が語る次世代の組織法

<p>本記事は、メタワークス会計事務所・メタワークスコンサルティング代表で公認会計士・税理士の<a href="https://invaders.co.jp/members/hoshino-ushio.html" target="_blank" rel="noopener">星野宇潮(ほしの・うしお)</a>が、一般社団法人RULEMAKERSDAOの監事として合同会社型DAOの制度化に関与するに至った経緯を語ったインタビュー第3回です。IPO支援20社超という会計の最前線にいた人間が、なぜ「DAO」という新しい組織のかたちの立法・制度設計に踏み込んだのか。その問題意識と、経営者・スタートアップが押さえておくべき実務上の論点を、本人の言葉でお届けします。</p>

<h2>なぜ「株式会社だけ」では足りないと感じたのか</h2> <p>私はキャリアの大半を、株式公開(IPO)の支援に費やしてきました。20社を超える上場のお手伝いをするなかで、株式会社という器が、いかによくできた制度かを誰よりも実感しています。資本を集め、ガバナンスを効かせ、投資家に説明責任を果たす ── 株式会社は、規模の経済を回すための最良の発明のひとつです。</p> <p>一方で、現場に立ち続けるうちに、ひとつの違和感も大きくなっていきました。世の中で生まれている価値ある活動のすべてが、株式会社の論理に収まるわけではない、ということです。</p> <ul> <li>クリエイターやエンジニアが、報酬よりも「面白さ」や「思想」でつながって動くプロジェクト</li> <li>地域コミュニティや関係人口が、株主・従業員という関係ではなく、緩やかな貢献で支える活動</li> <li>社会課題の解決を目的とし、利益の最大化を第一義としない組織</li> </ul> <p>こうした活動を無理に株式会社の枠にはめると、出資比率に応じた支配や、利益分配を前提とした設計が、かえって参加者のモチベーションを削いでしまうことがあります。「次の時代の組織には、株式会社とは別の選択肢が要る」── これが、私がDAOに関心を持った出発点でした。</p>

<h2>DAO(分散型自律組織)とは何か、そして日本における壁</h2> <p>DAO(Decentralized Autonomous Organization/分散型自律組織)は、ブロックチェーン技術を使い、中央の管理者を置かずに参加者の合議で意思決定を行う組織のかたちです。トークン(ガバナンストークン)を保有する人が提案・投票を行い、ルールの一部をスマートコントラクトで自動執行する ── これがおおまかなイメージです。</p> <p>会計・税務の専門家として惹かれたのは、その「透明性」でした。取引や投票の履歴がブロックチェーン上に記録され、誰でも検証できる。理屈のうえでは、これほど監査可能性の高い組織はありません。</p> <p>ところが、いざ日本でDAOを動かそうとすると、実務上の壁が次々と現れます。私が当時、特に問題だと感じていたのは次の点でした。</p> <table> <thead><tr><th>論点</th><th>従来の課題(立法前の典型的な悩み)</th></tr></thead> <tbody> <tr><td>法人格</td><td>DAOそのものに法人格を与える受け皿がなく、契約・口座開設・対外的な責任の所在が曖昧になりやすい</td></tr> <tr><td>参加者の責任</td><td>権利能力なき社団や民法上の組合と整理されると、参加者が無限責任を負うリスクが生じうる</td></tr> <tr><td>課税関係</td><td>トークンの発行・保有・分配に対する課税の考え方が定まらず、税務処理の予見可能性が低い</td></tr> <tr><td>ガバナンス</td><td>「分散」と「説明責任」をどう両立させるか、会社法・金融規制との接続が整理されていない</td></tr> </tbody> </table> <p>つまり、技術として優れていても、それを受け止める「法のかたち」が日本には用意されていなかった。会計士としての私の役割は、この空白を埋める制度設計を、現実的な言葉に翻訳することだと考えました。</p>

<h2>一般社団法人RULEMAKERSDAOを立ち上げた理由</h2> <p>制度の空白は、評論しているだけでは埋まりません。そこで私は、DAOに関する立法提言・政策対話・実務啓発を行う受け皿として、一般社団法人RULEMAKERSDAOの設立に関わり、監事としてその運営を支えています。</p> <p>名前のとおり、ねらいは「ルールを使う側」ではなく「ルールをつくる側(RULEMAKERS)」に当事者として回ることです。具体的には、次のような活動を地道に重ねてきました。</p> <ol> <li>政策担当者・国会議員・省庁の実務家との対話を通じ、現場の困りごとを制度の言葉に翻訳する</li> <li>研究者・弁護士・税理士など専門家と連携し、会社法・税法・金融規制との整合性を検証する</li> <li>スタートアップ経営者やコミュニティ運営者から、実際の運用ニーズをヒアリングし制度設計に反映する</li> <li>制度ができた後に「使える」ものになるよう、ガイドライン整備や実務啓発まで伴走する</li> </ol> <p>監事という立場上、私が強く意識したのはガバナンスと透明性です。新しい組織のかたちを世に問う団体こそ、自らの運営が説明可能でなければ説得力を持ちません。会計の規律を、ロビーイング団体の運営そのものに持ち込むこと ── これが私なりの矜持でした。</p>

<h2>「合同会社型DAO」という解 ── 私が制度に関与して見えたこと</h2> <p>議論を重ねるなかでたどり着いた現実解のひとつが、「合同会社型DAO」です。これは、まったく新しい法人類型をゼロから創設するのではなく、既存の<strong>合同会社(LLC)</strong>という枠組みを土台に、DAO的な分散運営を載せるという発想です。</p> <p>補足すると、「合同会社型DAO」は、DAO専用の新法を一から制定したものというより、既存の会社法上の合同会社をベースに、関連するルール(社員権をトークンで扱う際の金融規制上の整理など)を見直すことで実務上使えるようにした、という性格のものです。根拠となる法令・府令やその施行時期、適用要件の細部は更新されることがあるため、正確な内容は<strong>金融庁・法務省などの公式情報</strong>や<strong>e-Gov法令検索</strong>、専門家への確認をおすすめします。</p> <h3>なぜ「合同会社」だったのか</h3> <p>株式会社ではなく合同会社が選ばれた背景には、合同会社が持つ次のような性質があります。</p> <ul> <li><strong>有限責任</strong> ── 社員(出資者)の責任が出資額の範囲に限定されるため、参加者の無限責任リスクという最大の懸念を解消できる</li> <li><strong>定款自治の広さ</strong> ── 株式会社に比べ、内部のルール(意思決定や利益配分の方法)を定款で柔軟に設計できる</li> <li><strong>機関設計の自由度</strong> ── 取締役会のような重厚な機関を必須としないため、分散的・機動的な運営と相性がよい</li> </ul> <p>この「有限責任 × 定款自治」という性質が、DAOが求める柔軟さと、参加者を守る法的保護を両立させる土台になりました。合同会社の社員としての地位(社員権)をトークンを通じて管理することで、ブロックチェーン上の分散運営と、法人格に裏打ちされた法的保護を橋渡しする ── これが合同会社型DAOの核心です。</p> <h3>制度がもたらした実務上の意味</h3> <p>この枠組みが整理されたことで、これまで曖昧だった点に、実務の見通しが立つようになりました。</p> <ul> <li>DAOが<strong>法人格</strong>を持って契約・取引の主体になれる</li> <li>参加者が<strong>有限責任</strong>の保護を受けられる</li> <li>権利関係・意思決定のルールを<strong>定款</strong>として可視化できる</li> <li>課税関係を「正体不明の組織」ではなく、既存の法人課税の延長線上で検討できる</li> </ul> <p>制度設計の現場で痛感したのは、革新は「ゼロからの発明」よりも「既存の良い仕組みの再解釈」から生まれることが多い、ということでした。会計士は、新しいものを既存の体系のどこに接続すれば壊れないかを考える職業です。その視点が、立法の議論で少しは役に立ったのではないかと思っています。</p>

<h2>会計・税務の専門家として強調したい「予見可能性」</h2> <p>経営者の方とDAOの話をすると、必ず「結局、税金はどうなるのか」という問いになります。ここは私が最も慎重に語るべき領域です。暗号資産・トークンに関する税制は改正の動きが速く、施行時期や適用条件の細部が頻繁に変わるため、考え方の軸として申し上げられるのは次の3点です。</p> <ol> <li><strong>「組織への課税」と「参加者個人への課税」を分けて考える</strong> ── 法人としての合同会社にかかる税と、トークンを保有・売却した個人にかかる税は別の論点です。</li> <li><strong>トークンの法的性質によって扱いが変わりうる</strong> ── 社員権を表すものか、決済手段か、その他の権利かによって、適用される規制や課税の考え方が異なります。</li> <li><strong>「いつ」「いくらで」評価・課税されるかを設計段階で詰める</strong> ── 発行時・期末・分配時・売却時のそれぞれで、誰にどのような課税が生じうるかを事前に整理しておくことが、後のトラブルを防ぎます。</li> </ol> <p>具体的な税率・評価方法・優遇措置の有無や、その施行時期については、必ず最新の<strong>国税庁(タックスアンサー等)の公式情報</strong>や、暗号資産・web3の規制を所管する<strong>金融庁</strong>、web3・DAO関連の政策を扱う<strong>経済産業省</strong>等の公表資料をご確認いただくか、税理士に個別にご相談ください。法令の条文そのものは<strong>e-Gov法令検索</strong>で確認できます。確信のない数値を前提に意思決定をするのが、この分野で最も避けるべきことです。</p>

<h2>立法のその先へ ── 株式会社インベーダーズの創業</h2> <p>制度をつくることと、制度を社会に根づかせることは、別の仕事です。立法に関与したからこそ、私は「使われてはじめて制度は完成する」と痛感しました。そこで、合同会社型DAOやコミュニティ運営の可能性を事業として実装するために、株式会社インベーダーズを創業しました。</p> <p>インベーダーズは、企業・自治体・教育機関のコミュニティ伴走支援と、メタバース事業を展開しています。DAO・コミュニティ・メタバースという「新しい組織と居場所のかたち」を、机上の制度論で終わらせず、現場で動く形にしていく ── それが事業のミッションです。</p>

<h2>すべてに通底するテーマ ── 「未来の居場所づくり」</h2> <p>IPO支援も、DAOの立法も、メタバース事業も、私のなかでは一本の線でつながっています。それは「未来の居場所づくり」です。株式会社という器に収まりきらない活動に新しい法のかたちを、リアルだけでなくメタバース上にも居場所を、世代・地域・属性を超えて多様な人が貢献しつながれる場を。日本社会の「居場所」の選択肢を一つでも増やすこと ── これが、私の活動の根っこにある動機です。</p> <p>一般社団法人RULEMAKERSDAOは、合同会社型DAOの制度化を一区切りとしつつも、制度設計・実務啓発・コミュニティ支援を通じて、日本のDAO活用を一歩ずつ前に進める活動を続けています。</p>

<h2>よくある質問(FAQ)</h2> <h3>Q1. 合同会社型DAOと、ふつうの合同会社は何が違うのですか?</h3> <p>法人としての土台は同じ合同会社です。違いは、社員(出資者)としての地位や運営ルールを、ブロックチェーン上のトークンと定款を組み合わせて分散的に管理し、DAO的な合議による意思決定を行う点にあります。有限責任や定款自治といった合同会社の長所を活かしつつ、分散運営を載せる ── そのための運営設計や定款の作り込みが通常の合同会社以上に重要になります。具体的な要件は制度の最新情報をご確認ください。</p> <h3>Q2. DAOに参加したりトークンを持ったりすると、税金はどうなりますか?</h3> <p>結論から申し上げると、「保有しているトークンの法的性質」「保有者が個人か法人か」「発行・分配・売却のどの場面か」によって扱いが変わるため、一律にお答えできません。暗号資産・トークンの税制は改正の動きが速く、税率・評価方法・優遇措置の細部は流動的です。一般論として方針を整理することはできますが、実際の金額や適用関係は、国税庁の公式情報を確認のうえ、必ず税理士に個別にご相談ください。</p> <h3>Q3. これからDAO的なコミュニティを立ち上げたい経営者は、何から始めるべきですか?</h3> <p>まず「なぜ株式会社ではなくDAO(あるいは合同会社型DAO)なのか」という目的を言語化することをおすすめします。そのうえで、(1)参加者の責任範囲、(2)意思決定のルール、(3)トークンの位置づけと課税、(4)対外的な契約・口座の主体、という4点を初期段階で整理しておくと、後戻りが減ります。会社法・税法・金融規制が交差する領域なので、早い段階で会計・法務の専門家を交えて設計することが、結果的に最短距離になります。</p>

<h2>まとめ/ご相談</h2> <p>DAOや合同会社型DAOは、「新しい組織のかたち」であると同時に、会社法・税法・金融規制が複雑に交差する実務領域でもあります。技術や思想に共感して走り出したものの、法人格・参加者の責任・課税の整理でつまずく ── そうしたご相談を、私たちは数多くお受けしてきました。</p> <p>メタワークス会計事務所・メタワークスコンサルティングでは、IPO支援で培った会計・ガバナンスの規律と、DAO立法に関与した制度面の知見の両方から、組織形態の選択から税務・運営設計まで一気通貫でご支援します。「自分たちの活動に最適な器はどれか」を、現行制度に照らして一緒に考えます。</p> <ul> <li>あわせて読みたい:<a href="https://metaworksgroup.jp/topics/" target="_blank" rel="noopener">メタワークスグループ公式トピックス一覧</a></li> <li>サービス詳細:<a href="https://metaworksgroup.jp/" target="_blank" rel="noopener">メタワークスグループ公式サイト</a>(会計・税務・コンサルティングのご案内)</li> <li>監修者プロフィール:<a href="https://invaders.co.jp/members/hoshino-ushio.html" target="_blank" rel="noopener">星野宇潮(公認会計士・税理士)</a></li> </ul> <p>合同会社型DAOやコミュニティ運営に関する個別のご相談は、メタワークス会計事務所・メタワークスコンサルティングまでお気軽にお問い合わせください。</p> <p>(次回・第4回では、株式会社インベーダーズを創業し、企業・自治体・教育機関のコミュニティ伴走支援と、大規模なバーチャルイベントを展開するに至った経緯を語ります。)</p>

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