インタビュー

星野宇潮インタビュー② ─ IPO支援20社超の軌跡|監査法人を辞め「伴走する会計士」になるまで

<p>本記事は、メタワークス会計事務所・メタワークスコンサルティング代表の<strong>星野宇潮(ほしの・うしお/公認会計士・税理士)</strong>へのインタビュー第2回です。第1回(公認会計士試験への挑戦)に続き、今回はトーマツ退所後にIPO支援特化のコンサルティングファームを創業し、20社以上の上場準備に携わるまでの道のりを、本人の言葉で振り返ってもらいました。<a href="https://invaders.co.jp/members/hoshino-ushio.html">星野宇潮のプロフィール詳細はこちら</a>をご覧ください。</p>

<h2>監査法人を辞めて独立した理由</h2>

<p>「トーマツでの監査の仕事は、会計士としての基礎を徹底的に鍛えてくれました。財務諸表が適正かどうかを第三者の目で検証する。その規律は、いまの私の仕事の土台になっています。ただ、現場を重ねるほどに、ひとつの『もどかしさ』が募っていったんです」</p>

<p>星野が語る「もどかしさ」とは、監査人に課せられた<strong>独立性</strong>に由来するものでした。会計監査人は、自ら作成に関与した財務情報を自ら監査してはならない――いわゆる「自己監査の禁止」が大原則としてあります。これは公認会計士法や監査基準が求める根幹のルールであり、監査の信頼性を担保するうえで欠かせません。</p>

<p>「だからこそ、監査の立場では『この仕訳はこう直したほうがいい』『この内部統制はこう設計すべきだ』といった、踏み込んだ設計支援はできない。手を動かして一緒に作ってしまえば、それを自分で監査することになり、独立性が損なわれてしまうからです。けれど、上場を目指す経営者が本当に欲しいのは、まさにその『手を動かして一緒に作ってくれる伴走者』だと、現場で痛感していました」</p>

<p>監査と上場準備の実務支援は、似ているようで役割がまったく異なります。前者は「できあがったものを検証する」仕事、後者は「これから作るものを設計する」仕事です。自分は後者に賭けたい――そう考えた星野は、トーマツを退所し、<strong>IPO支援に特化したコンサルティングファーム</strong>を立ち上げました。</p>

<h2>N-3期から始まる、上場準備という長期プロジェクト</h2>

<p>IPO(新規株式公開)は、思い立ってすぐに実現できるものではありません。一般に、上場申請を行う期を「申請期(N期)」、その直前期を「N-1期(直前期)」、その前の期を「N-2期(直前々期)」、さらにその前の期を「N-3期」と呼び、準備には数年単位の時間を要します(呼称や年数の数え方は実務上の整理であり、個別案件のスケジュールや最新の上場審査の運用は日本取引所グループ・東京証券取引所の公式情報をご確認ください)。</p>

<p>「私が大切にしているのは、できるだけ早い段階――理想を言えばN-3期、あるいはそれより前から関わることです。上場準備は、直前になって帳尻を合わせられるものではありません。管理体制も、数字をつくる仕組みも、組織の文化も、時間をかけて積み上げていくものだからです」</p>

<p>星野が創業後に手がけてきた伴走支援は、おおむね次のような領域に及びます。</p>

<ul> <li><strong>月次決算の早期化</strong>:上場企業には、決算短信や有価証券報告書などの定期的な開示に加え、重要事実が生じた際の適時開示が求められます。月次決算を早く・正確に締める体制づくりは、その土台です(開示制度の最新の枠組みは金融庁・日本取引所グループの公式情報をご確認ください)。</li> <li><strong>内部統制(J-SOX)の構築</strong>:金融商品取引法に基づき、上場企業は財務報告に係る内部統制の整備・運用と、その評価・報告が求められます。業務フローの可視化からリスクコントロールマトリクスの整備まで、地道な作業の積み重ねです。</li> <li><strong>税効果会計の適用</strong>:会計と税務の差異を適切に処理し、繰延税金資産・負債を計上する。上場審査で必ず論点になる領域です。</li> <li><strong>関連当事者取引の整理</strong>:経営者個人と会社の取引、グループ会社間取引などを洗い出し、適正化・解消していく。</li> <li><strong>資本政策の見直し</strong>:誰が、いつ、いくらで株式を持つか。一度実行すると後戻りが難しいため、上場準備の中でも特に慎重さが求められます。</li> <li><strong>ストックオプション設計</strong>:役員・従業員のインセンティブ設計。税制適格要件の充足など、税務・会計の両面からの検討が欠かせません。</li> </ul>

<p>「どれも華やかな仕事ではありません。地味で、根気が要る作業の連続です。でも、この一つひとつが積み上がって初めて、審査に耐えうる会社になる。上場は『ゴール』ではなく『スタートライン』ですから、上場後も回り続ける仕組みをつくることを、いつも意識していました」</p>

<p>各論の実務については、<a href="https://metaworksgroup.jp/topics/ipo-roadmap-n3">IPO上場準備のロードマップ(N-3期から本上場までの完全ガイド)</a>、<a href="https://metaworksgroup.jp/topics/ipo-monthly-closing-acceleration">IPO準備のための月次決算早期化マニュアル</a>、<a href="https://metaworksgroup.jp/topics/stock-option-design">ストックオプション制度設計の完全ガイド</a>でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。</p>

<h2>20社超の上場準備に携わって見えたこと</h2>

<p>創業以来、星野はIPO準備中の中小・中堅企業を一貫してサポートし、これまでに20社以上の上場準備に携わってきました。支援先は東証グロース市場をはじめとする新興市場の上場準備企業が中心です。</p>

<p>「数を重ねるなかで確信したのは、『正解のテンプレートはない』ということです。事業の性質も、組織の成熟度も、経営者の考え方も、会社ごとにまったく違う。ある会社で機能した仕組みが、別の会社ではうまくいかないことは珍しくありません」</p>

<p>では、20社を超える現場に共通する「勘どころ」は何だったのでしょうか。星野は3つを挙げます。</p>

<ol> <li><strong>数字を『つくれる』組織にすること</strong>:誰か一人の職人技に依存している経理は、上場審査では通用しません。属人化を排し、誰が締めても同じ数字が出る仕組みへ。</li> <li><strong>『なぜこの会社が上場するのか』を言語化すること</strong>:エクイティストーリー(成長の物語)が曖昧なまま準備を進めると、主幹事証券や審査の過程で必ず行き詰まります。</li> <li><strong>経営者自身が当事者であり続けること</strong>:上場準備を「コンサルや監査法人に任せる仕事」と捉えた瞬間に、準備は形骸化します。</li> </ol>

<p>「上場準備には、経営者・経理責任者・取締役会・監査法人・主幹事証券会社・株式事務代行機関・印刷会社(ディスクロージャー)など、本当に多くのプレイヤーが関わります。それぞれが専門家であり、それぞれの立場がある。その中で、経営者の一番近くに立って、利害ではなく会社の未来のために本音で語れる存在でいたい。私はそう思って20社と向き合ってきました」</p>

<h2>IPO支援の本質 ─ 「本気で対峙する」ということ</h2>

<p>星野がIPO支援の本質として繰り返し口にするのが、「経営者と本気で対峙する」という言葉です。</p>

<p>「上場準備は3年から5年に及ぶ長期プロジェクトです。その間には、業績が思うように伸びない時期もあれば、想定外の論点が出てきて方針転換を迫られることもある。きれいごとだけでは前に進めません。だからこそ、ときには経営者に対して耳の痛いことも言う。『その資本政策は将来こういうリスクがありますよ』『この取引は審査で必ず問われますよ』と、本気でぶつかる。それができる関係性をつくることが、伴走者としての価値だと考えています」</p>

<p>この哲学については、シリーズ第6回の<a href="https://metaworksgroup.jp/topics/hoshino-interview-ipo-philosophy">星野宇潮インタビュー⑥ ─ IPO支援の哲学「経営者と本気で対峙する」とは何か</a>でより深く掘り下げています。</p>

<h2>次のフェーズへ ─ DAO・メタバース・コミュニティという問題意識</h2>

<p>20社を超える上場準備に携わり、伝統的な株式会社というかたちを知り尽くした星野ですが、その視線は次第に「次世代の組織のかたち」へと向かっていきました。</p>

<p>「上場企業という形態は、資本を集め、ガバナンスを効かせ、社会的な信頼を得るための、人類が長い時間をかけて磨いてきた素晴らしい仕組みです。それは間違いありません。ただ同時に、Web3やブロックチェーンの技術が広がるなかで、『株式会社や上場とは違うかたちで人が集まり、価値を生み出す組織』が現れ始めていることにも気づいたんです」</p>

<p>その代表が、DAO(分散型自律組織)でした。中央集権的な経営者を置かず、参加者がルールに基づいて自律的に協働する――そうした組織が、これからの日本社会のひとつの基盤になりうるのではないか。そう感じた星野は、会計・税務の専門家として、この新しい領域に関わっていく決意を固めます。</p>

<p>「IPOの最前線に立ってきたからこそ、新しい組織にも『信頼を担保する仕組み』が必要だと痛感していました。法律も会計基準も追いついていない領域に、専門家として向き合う。それは独立を決めたときの『もっと深く伴走したい』という思いの、自然な延長線上にありました」</p>

<p>この問題意識が、のちの合同会社型DAOの立法への関与、一般社団法人RULEMAKERS DAOでの活動、そして株式会社インベーダーズの創業へとつながっていきます。DAOの会計・税務の実務的な論点については<a href="https://metaworksgroup.jp/topics/dao-tax-accounting">DAOの税務・会計の基礎</a>もご参照ください。</p>

<h2>次回予告</h2>

<p>次回(第3回)では、星野宇潮がDAOに本格的に着目し、ロビーイング団体である一般社団法人RULEMAKERS DAOを立ち上げ、合同会社型DAOの立法に関与するに至った経緯を語ります。詳しくは<a href="https://metaworksgroup.jp/topics/hoshino-interview-dao-legislation">星野宇潮インタビュー③ ─ 合同会社型DAOの立法に関与した経緯</a>へ。</p>

<h2>よくある質問(FAQ)</h2>

<h3>Q. IPO支援は、いつから着手すべきですか?</h3> <p>A. 早ければ早いほど選択肢が広がります。月次決算の早期化や内部統制の構築には相応の時間がかかるため、N-3期、あるいはそれより前から準備を始める企業が多くなっています。直前になって整えようとすると無理が生じやすく、審査上の論点も増えがちです。なお、上場スケジュールや審査基準の最新の考え方は、日本取引所グループ(JPX)・東京証券取引所の公式情報をご確認ください。</p>

<h3>Q. 監査法人とIPO支援コンサルティングは、何が違うのですか?</h3> <p>A. 役割が異なります。会計監査人は財務諸表が適正かを第三者の立場で検証する存在で、独立性の観点から、自ら作成に関与した情報を監査することは認められていません。一方、IPO支援コンサルティングは、管理体制や数字をつくる仕組みを「一緒に設計する」立場です。両者は補完関係にあり、上場準備では双方が必要になります。</p>

<h3>Q. 上場準備にはどのような専門家・関係者が関わりますか?</h3> <p>A. 経営者・経理責任者・取締役会に加え、監査法人、主幹事証券会社、株式事務代行機関、ディスクロージャー会社など、多くのプレイヤーが関わります。役割が異なるため、全体を見渡して交通整理し、経営者の意思決定を支える「伴走者」の存在が、準備をスムーズに進めるうえで重要になります。</p>

<h2>まとめ/ご相談</h2>

<p>監査法人を辞め、「手を動かして一緒に作る伴走者」になることを選んだ星野宇潮。20社を超える上場準備の現場で磨かれたのは、テンプレートではなく、会社ごとに最適な道筋を経営者と一緒に描く力でした。そしてその経験は、いまDAOやメタバースという次世代の組織を支える挑戦へと受け継がれています。</p>

<p>メタワークス会計事務所・メタワークスコンサルティングでは、IPOを見据えた管理体制の構築から、内部統制・資本政策・ストックオプション設計、そしてDAOやWeb3領域の会計・税務まで、公認会計士・税理士が一貫して伴走支援を行っています。<a href="https://metaworksgroup.jp/topics/ipo-support-service">IPO(株式公開)支援サービスのご案内</a>や<a href="https://metaworksgroup.jp/topics/startup-support">スタートアップ支援プラン</a>もあわせてご覧ください。</p>

<p>「いつかは上場を」という構想段階のご相談でも構いません。星野宇潮および当事務所への個別のご相談は、メタワークス会計事務所・メタワークスコンサルティングまでお気軽にお問い合わせください。</p>

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