本記事は、合同会社型DAOに関する立法へ関与したメタワークス会計事務所/メタワークスコンサルティング代表・星野宇潮(ほしの・うしお)公認会計士・税理士が、DAOが日本社会へ普及していく未来像と、今後5年で活用が広がる領域を語ったインタビューです。星野はIPO支援に携わってきた会計・資本市場の実務家であると同時に、一般社団法人 RULEMAKERS DAOの監事として政策提言の現場に立ち、合同会社型DAOの制度設計議論に当事者として参加してきました。資本市場とルールメイクの両方を知る立場から、5年後の景色を率直に語ってもらいました。
「DAOに法人格を」── 制度ができたことの本当の意味
── まず、合同会社型DAOが制度として整ったことを、どう受け止めていますか。
星野「正直に言うと、これは単なる技術的な調整ではなく、『次世代の組織のかたちを、社会が公式に認めた』という非常に重い一歩だと思っています。法人格があるかないかは、現場では決定的に違うんですよ。法人格がなければ、契約も銀行口座も、責任の所在すらあいまいになる。これまでDAO的な活動をやりたいと思っていた人たちは、ここで足踏みせざるを得なかった」
星野「合同会社型DAOというのは、ざっくり言えば『合同会社の社員権(出資持分)をトークンで表す』仕組みです。合同会社というしっかりした法人格の器に、トークンによる分散的な運営という新しい中身を入れた、と理解してもらうのが一番わかりやすい。器が法律で認められたことで、『安心して始めていい』というメッセージが社会に出た。私はそこに一番意味があると思っています」
なぜ「株式会社型」ではなく「合同会社型」だったのか
星野「ここはよく聞かれます。合同会社は所有と経営が一致した『人的会社』で、社員(出資者)自身が業務執行に関わります。コミュニティの参加者が同時に運営の担い手でもある、というDAOの思想と構造的に相性がいい。加えて、設立や定款変更の自由度が高く、定款認証が不要で設立コストも株式会社より抑えられる。新しい組織形態の実験場としては、合同会社の柔軟さが合っていたということです」
星野「逆に言えば、合同会社である以上の制約──たとえば持分譲渡の取り扱いや出口戦略の難しさ──も引き継ぎます。ここは後で触れますが、『DAOだから何でも自由』ではない。既存の会社法・税法の枠組みの上に立っている、という前提は外さないでほしいんです」
株式会社と合同会社の根本的な違いについては、合同会社と株式会社の選び方でも詳しく整理していますので、組織形態から検討したい方はあわせてご覧ください。
今後5年、合同会社型DAOはどこで広がるか
── 普及するとして、最初にどんな領域で動きそうですか。星野さんの見立てを聞かせてください。
星野「あくまで私の予測ですが、次の5つの領域は早く動くと見ています」
| 領域 | 想定されるDAO活用の形 |
|---|---|
| ① クリエイター経済 | アーティストとファンが共同でコミュニティを所有・運営。応援が「出資」と地続きになる |
| ② 地域・関係人口 | 自治体や地域団体が、住民や関係人口を巻き込んだDAOで地域活性化に活用 |
| ③ スタートアップ初期 | VC調達前のシード期に、初期メンバーや早期支援者と共同所有する選択肢 |
| ④ 研究・教育 | 研究プロジェクトや学習コミュニティが、運営費を分散的に調達する仕組み |
| ⑤ 社会課題解決 | NPO・NGOに代わる新しい器として、課題解決のプラットフォームに |
星野「特に手応えを感じているのは①と②です。クリエイター経済では、これまで『ファンは応援するだけ』『クリエイターは提供するだけ』という一方通行の関係でした。そこに、ファンが運営に関わり、コミュニティの成長を一緒に取りに行く構造が入る。応援の熱量が、ガバナンスという形で組織に還っていくわけです」
星野「地域コミュニティも本命です。人口減少で『担い手がいない』という地域は山ほどある。でも、その地域を愛している人は外にもたくさんいる。関係人口を法人格のあるDAOに巻き込めれば、距離を超えて地域運営に参加できる。自治体の方と話していても、ここへの関心は本当に高いです」
「とりあえずDAO」は失敗する
星野「ただ、強く言いたいのは──DAOは手段であって目的ではない、ということです。『流行っているからDAOにしたい』という相談は多いのですが、それだと十中八九うまくいかない。『何を実現したくて、なぜ既存の株式会社やNPOではダメなのか』をまず言語化する。そこが固まって初めて、最適な制度設計の話ができるんです」
実際の組成プロセスを段階的に知りたい方は、DAO組成の10ステップ ─ 合同会社型DAO設立完全ガイドで、ミッション策定から設立登記・トークン設計・運営体制構築までを解説しています。
普及を阻む「3つの壁」と、その正体
── 逆に、普及のブレーキになっているものは何でしょうか。
星野「現場の感覚で言うと、壁は大きく3つです」
壁① 税務・会計処理の複雑さ
星野「これが一番大きい。合同会社型DAOは法人ですから、原則として法人税の課税対象になりますし、社員(トークン保有者)への分配は配当として扱う、というのが基本的な考え方です。ただ、論点はそこから先が深い」
星野「たとえば、トークンを発行したときにどう会計処理するのか。それが社員権としての性質なのか、有価証券的な性質なのか、支払手段的な性質なのかで扱いが変わる。トークン保有者からの拠出が『資本性のお金』なのか『役務提供の対価』なのかでも処理が分かれます。ガバナンス投票への報酬が給与所得なのか事業所得なのか雑所得なのか、という所得区分の整理も必要です」
星野「さらに、海外居住のトークン保有者へ分配する場合は、源泉徴収と租税条約の適用関係まで絡んでくる。ここは本当に一筋縄ではいきません。暗号資産やトークンに関する税務の取り扱いは制度の動きが速い領域です。具体的な税率・課税区分・申告の取り扱いは、必ず国税庁の公式情報(タックスアンサー等)と、顧問税理士に最新の内容をご確認ください。原則だけで判断すると足をすくわれます」
DAO特有の会計・税務論点を体系的に押さえたい方は、DAO(分散型自律組織)の税務・会計処理完全ガイドを、暗号資産・NFT・DeFiの実務はWeb3・暗号資産事業者向け税務サービスをご参照ください。
壁② ガバナンス運営のノウハウ不足
星野「意思決定をスマートコントラクトである程度自動化するのは、技術的にはもうできます。問題はそこじゃない。『人間が関わる組織』として、どう柔軟に、どう持続的に回すかのノウハウがまだ社会に蓄積されていないんです」
星野「投票プロセス、提案の出し方、モデレーション、利益配分のルール──このあたりを定款や運営規程として、会計・税務とも矛盾しないように設計しないといけない。ガバナンス文書とお金の流れが食い違っていると、後で必ず揉めます。ここは設計段階で専門家を入れるべきところです」
壁③ 社会的認知度
星野「身も蓋もない話ですが、『DAOって何?』『なんか怪しい』という反応はまだ多い。これは技術の問題ではなく、信頼の蓄積の問題です。だからこそ、きちんと法人格を持ち、会計・税務をクリーンに回す事例を一つずつ積み上げる。『DAOは怪しくない、ちゃんとした組織形態だ』という見本を増やすことが、結局いちばんの普及策だと思っています」
立法に関わった者として、いま取り組んでいること
星野「この3つの壁を崩すために、立場を分けて動いています。一般社団法人 RULEMAKERS DAOでは、監事として政策提言と実務啓発を続けています。制度は作って終わりではなく、運用しながら磨いていくものですから」
星野「メタワークス会計事務所・メタワークスコンサルティングでは、法人設立・トークン設計・税務処理といったDAO組成の実務支援を提供しています。そして株式会社インベーダーズやメタバース事業ブランドでは、実際にコミュニティを立ち上げ運営する中で、現場のノウハウを貯めている。制度を作る側・税務で支える側・実際に運営する側、この3つを同じ人間が見ている例はそう多くないはずで、ここは私の強みだと思っています」
コミュニティ運営の財務・税務面の伴走についてはコミュニティ伴走支援でも紹介しています。星野の立法関与の経緯は合同会社型DAOに関する立法に関与しましたをご覧ください。
5年後の景色 ── 経営者がいまから準備すべきこと
── 最後に、5年後をどう見ていますか。経営者は何を準備しておくべきでしょう。
星野「派手な予測はしません。ただ、5年後には『一部の先進的な事業者がDAOを試した』段階から、『目的に合えばDAOも選択肢に入る』段階へ確実に進むと見ています。株式会社・合同会社・NPOと並んで、DAOが組織形態の選択肢の一つとして当たり前に検討される。そういう成熟が来る」
星野「経営者の方に準備してほしいのは、難しい技術の勉強ではありません。次の3つで十分です」
- 目的の言語化──『自社は誰と、何を共同所有したいのか』。これが固まっていれば、DAOが要るのか要らないのかは自ずと見えます。
- 既存の組織形態との比較──株式会社・合同会社・NPOで代替できないか。DAOにしかできないことが残って初めて検討に値します。
- 会計・税務の早期相談──組成してから税務を考えるのは順番が逆。設計段階で論点を洗い出しておけば、後戻りのコストを大きく減らせます。
星野「DAOは万能薬ではありません。でも、合う場面でハマったときの推進力は本物です。私はその『合う場面』を一つでも多く見つけて、形にしていきたい。日本社会にDAOが自然に根づく未来をつくることが、私の長期のミッションです」
よくある質問(FAQ)
Q. 合同会社型DAOは、普通の合同会社と何が違うのですか?
法人格は同じ合同会社ですが、社員権(出資持分)をトークンで表し、ガバナンストークンによる分散的な意思決定と組み合わせて運営する点が異なります。器(合同会社)は同じでも、運営の中身(トークンによる共同所有・共同運営)が新しい、とお考えください。一方で、合同会社特有の制約(持分譲渡の難しさ、IPOには直接つながらない等)も引き継ぎます。
Q. DAOで得たトークンや分配には、どんな税金がかかりますか?
原則として、合同会社型DAOは法人税の課税対象で、社員(トークン保有者)への分配は配当として扱うのが基本的な考え方です。ただし、トークンの性質や受け取る側の立場(個人か法人か、国内か海外か)によって所得区分や源泉徴収の扱いが変わり、暗号資産・トークン課税は制度の動きも速い領域です。具体的な税率や課税区分は創作で判断せず、国税庁の公式情報(タックスアンサー等)と税理士に最新の取り扱いをご確認ください。
Q. うちのような小さな会社でも、DAOを検討する意味はありますか?
規模よりも「目的」が判断軸です。ファンや支援者、地域の関係人口など、外部の人と共同で何かを所有・運営したいニーズがあるなら、規模が小さくても検討の価値があります。逆に、社内で完結する事業なら無理にDAOにする必要はありません。「既存の株式会社・合同会社では実現できないことがあるか」を起点に考えるのがおすすめです。
まとめ/ご相談
合同会社型DAOは、「次世代の組織のかたちを社会が公式に認めた」という意味で大きな一歩です。今後5年で、クリエイター経済・地域・スタートアップ初期・研究教育・社会課題解決といった領域へ着実に広がっていくと見込まれます。一方で、税務・会計の複雑さ、ガバナンス運営のノウハウ、社会的認知度という3つの壁も現実に存在します。だからこそ、組成は「目的の言語化 → 既存形態との比較 → 会計・税務の早期相談」という順番が重要です。
メタワークス会計事務所/メタワークスコンサルティングでは、合同会社型DAOの立法に関与した公認会計士・税理士 星野宇潮のもと、法人設立・トークン設計・会計税務処理まで、DAO組成をワンストップで支援しています。「自社の目的にDAOが合うのか」という入口の相談から歓迎です。DAO・Web3・コミュニティ事業をご検討の際は、メタワークス会計事務所/メタワークスコンサルティングまでお気軽にお問い合わせください。なお本記事は制度の考え方を一般的に解説したものであり、個別の税務・法務判断は最新の公式情報と専門家への確認のうえで行ってください。
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