
本記事は、メタワークス会計事務所・メタワークスコンサルティング代表の星野宇潮(ほしの・うしお)へのインタビューシリーズ番外編です。会計・IPO・DAO・メタバースを扱った本編(全10回)に続き、今回は星野が自ら開発・実証を進める監査支援AI『右筆(ゆうひつ)』を題材に、「自律型AIエージェント開発者」としての取り組みを掘り下げます。聞き手の問いに、本人が一人称で答えるかたちでお届けします。
『右筆』は、公認会計士・税理士である星野が開発・実証し、株式会社インベーダーズが提供する監査支援ツールです。キャッチコピーは「会計データを入れるだけ。監査調書が、下書きまで。」。会計士が最も時間を奪われる「監査調書づくり」を、最も規制が厳しく自動化が難しい領域として正面から自動化しようという試みです。
『右筆(ゆうひつ)』とは何か
── まず、『右筆』がどんなものか教えてください。
「ひとことで言うと、会計データ(CSVやExcel)を入れるだけで、監査調書を法人様式で『下書きまで』自動生成するツールです。調書づくりだけでなく、開示書類の整合性チェックや、帳簿と証憑の突合まで、ひと通りの定型作業をカバーします。しかも、これらの処理をすべて端末内(ブラウザの中)で完結させ、生のデータを外に出さないのが大きな特徴です」
「名前の『右筆』は、武家で主君に仕え、文書の作成や代筆を担った書記役のことです。書くのは右筆ですが、決裁・署名・押印は必ず主君が行いました。これを現代に置き換えたのが、『書くのはAI、判断と署名は監査人』という設計思想です。AIはあくまで下書きを担い、最終的な判断と責任は人が負う。この線引きを、名前そのものに込めています」
なぜ「監査調書を組む」という最難関に挑むのか
── 会計・監査の自動化はハードルが高いと言われます。なぜそこを選ぶのですか。
「会計・監査・確定申告は、会計基準・監査基準・税法といった制度が複雑に絡み、頻繁に改正される、最も規制が厳しく自動化が難しい領域です。だからこそ、ここで実務として動くAIをつくれれば、効果は計り知れない。私はそう考えています」
「もうひとつ、既存のAIの多くは証憑突合のような『前工程の支援』が中心で、『調書そのものを法人様式で組み上げる』ところは、まだ空白地帯でした。会計士が一番時間を奪われ、一番つらいのはまさにそこ。転記・集計・整形に追われて、本来やるべき判断に時間が割けない。その一番手強い核心に踏み込みたかったんです」
「私は会計士として調書づくりの細部を知っています。だから『動くデモ』では満足しません。例外処理、証跡の残し方、現場で本当に使えるか——プロトタイプで終わらせず、実務で動くAIにすることにこだわっています」
『右筆』ができる「3つの道具」
── 具体的に、何ができるのでしょうか。
「大きく3つの道具で構成しています」
| 道具 | できること |
|---|---|
| 壱:調書を組む | 会計データを入れると、全科目の監査調書を法人様式で自動生成。構成は「手続書+リードスケジュール+各手続シート」。結論欄は計算事実ベースの自動下書き。1科目=1ブックでZIP一括出力。 |
| 弐:開示チェック | BS・PL・CFの整合性を自動検算(貸借一致・利益チェーン・CF整合・注記整合・明細の縦横計算など)。不一致はその場でハイライトし、想定原因つきでExcel出力。 |
| 参:データ突合 | 帳簿と証憑を金額・日付・相手先で自動マッチング(1対1・按分・多対多・補助科目別に対応)。未突合をあぶり出す。証憑画像は端末内OCRで読み取り。 |
「このほか、年齢表や回転期間、タックスプルーフといった定型の計算も用意しています。いずれも、会計士が『毎回手で繰り返している作業』を機械に渡す、という発想です」
設計思想①「書くのはAI、判断と署名は人」
── AIが監査調書を書くと聞くと、監査の信頼性を心配する声もありそうです。
「そこは一番大事にしているところです。『右筆』が出すのは、あくまで『自動下書き・要確認』まで。確定も署名も、必ず人が行います。自動では完了しない設計に、あえてしてあります」
「ですから、AIには明確に『やらせないこと』を決めています。結論や心証を勝手に確定しない。実査や立会といった現物の判断は代替しない。『精度○%』のような数値も約束しない。AIは判断の主役ではなく、判断に集中するための時間をつくる道具です。監査の責任は、これからも人が負うべきだと考えています」
設計思想②「生データを外に出さない」守秘性
── 会計データはきわめて機微な情報です。安全性はどう担保していますか。
「これが『右筆』の最大の特徴です。集計も証憑のOCRも、すべて端末内(ブラウザ)で完結させ、試算表や証憑といった生データはサーバーに送りません。OCRも端末の中で実行するので、証憑画像も外に出ない。外部のAIに渡るのは『算定後の要約』だけで、それも学習には使わない方針です」
「監査や会計は、守秘義務がとりわけ重い世界です。『規制産業で使える』を前提に設計する——これは私が会計士だからこそ外せない一線でした。便利さのためにデータを預ける、という発想を最初から取らない。そこが、一般的なクラウド型のAIサービスとの決定的な違いです」
設計思想③「固定ロジックで、毎回同じ結果」
── 生成AIは、同じことを聞いても答えが揺れることがあります。監査では困りませんか。
「おっしゃるとおりで、だから集計・検算・突合は、LLM(生成AI)ではなく固定ロジックの計算で行っています。同じ入力なら毎回同じ結果になり、生成の揺らぎがありません。監査調書は再現性が命ですから、ここはAIの『それっぽさ』に任せてはいけない部分です」
「『AIだから何でも生成させる』のではなく、揺れてはいけない計算は固定ロジックで固め、人の判断を助ける下書きの部分にAIを使う。この役割分担こそが、規制の厳しい現場で実務に耐えるAIをつくる勘所だと思っています」
『右筆』と「自律型AIエージェント開発」、そして経営者へ
── 『右筆』は、星野さんが掲げる「自律型AIエージェント開発」とどうつながりますか。
「『右筆』は、私が取り組む『最も規制が厳しい領域へのAIの社会実装』の、いちばん具体的なかたちです。会計士が一番つらい作業をAIに任せ、人は判断に集中する。これは、DAOの制度設計で向き合ってきた『人がどう役割を分け、どう協働するか』という組織設計の延長でもあります。人とAIの役割をどう分界するか、という問いそのものなんです」
「経営者や経理担当の方にとっても、考え方は同じです。揺れてはいけない計算は固める。判断は人が担う。データは守る。そのうえで、定型作業はAIに渡して時間を生む。メタワークスでは、この思想をそのまま、皆さんの経理DXやAI活用の伴走に持ち込んでいます」
※『右筆』は現在、開発・実証(共創)のフェーズにあります。ダミーデータでの体験から始め、守秘・データ取扱い・知的財産の帰属を書面で取り決めたうえで、限定した範囲で実証を進める形をとっています。製品の最新状況は 右筆 公式ページ をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 『右筆』は誰向けのツールですか? 経営者でも使えますか?
『右筆』は、監査法人・会計事務所・公認会計士、そして業務委託で調書作成を担う会計士に向けた専門ツールです。一般の経営者・経理担当者が直接使う想定のものではありません。経営者の皆様には、『右筆』と同じ設計思想(人が判断・AIが下書き・データは守る)を、クラウド会計やAIを活用した経理DXという形で、メタワークスがご提案・伴走します。
Q2. AIが監査調書を作成して、監査の品質は保てるのですか?
『右筆』が生成するのは「下書き」までで、内容の確定・署名は必ず人(監査人)が行います。集計や検算は生成AIではなく固定ロジックで処理するため再現性があり、AIが結論や心証を勝手に確定することはありません。実査・立会といった現物の判断も代替しません。あくまで、人が判断に集中するための時間を生む道具です。
Q3. 会計データの安全性はどう確保されていますか?
集計も証憑のOCRも端末内(ブラウザ)で完結し、試算表や証憑などの生データはサーバーに送信されません。外部AIに渡るのは算定後の要約のみで、学習には使わない方針です。守秘義務の重い監査・会計の現場で「規制産業で使える」ことを前提に設計されています。
まとめ/ご相談
『右筆(ゆうひつ)』は、公認会計士・税理士の星野宇潮が開発・実証を進め、株式会社インベーダーズが提供する監査支援AIです。会計データから監査調書を法人様式で下書きまで自動生成し、開示チェック・証憑突合までを端末内で完結。「書くのはAI、判断と署名は監査人」という思想のもと、最も規制が厳しく自動化が難しい領域へのAIの社会実装に正面から取り組んでいます。
メタワークス会計事務所・メタワークスコンサルティングでは、この『右筆』で培った思想を土台に、クラウド会計の導入、経理DX、IPO支援、日々の会計税務、そしてAIを活用した業務自動化まで、経営の足場づくりを一気通貫で伴走しています。「経理の負担を減らしたい」「AI活用の進め方を相談したい」という方は、まずはお気軽にご相談ください。
- 監査支援AI『右筆』の詳細は 右筆 公式ページ(invaders.co.jp/yuhitsu) をご覧ください。
- 監修者の経歴・関連記事は メタワークスグループ・トピックス一覧 および 星野宇潮プロフィール をご覧ください。
- 会計税務・経理DX・AI活用のご相談は メタワークスグループ公式サイト のお問い合わせ窓口から承っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務・監査上の判断や特定のAI導入効果を保証するものではありません。『右筆』は開発・実証段階のツールであり、機能・仕様・提供形態は変更される場合があります。最新の取り扱いは国税庁・金融庁・日本公認会計士協会などの公式情報および右筆公式ページをご確認のうえ、具体的なご判断は専門家にご相談ください。
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